福岡高等裁判所 昭和61年(行コ)1号 判決 1986年9月29日
北九州市小倉北区片野二丁目七-一六-二〇一号
控訴人
月成剛平
右訴訟代理人弁護士
南谷知成
同市小倉北区萩崎町一番一〇号
被控訴人
小倉税務署長
後藤軍司
右指定代理人
辻井治
同
末廣成文
同
高木功
同
江崎福信
同
鵜池勝茂
右当事者間の所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五七年三月三一日控訴人に対してした昭和五五年一月分、同年三月分から同年一二月分までの源泉徴収による所得税についての納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(但し、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。被控訴人が同日控訴人に対してした昭和五六年一月分から同年一二月分までの源泉徴収による所得税についての納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
原判決五枚目表九行目の次に改行して
「三 被控訴人の主張
1 控訴人は、昭和四一年一二月二〇日興行場法二条一項の規定に基づき、次の内容の営業許可を受けた。
名称 室町劇場
所在地 北九州市小倉北区室町二丁目四番一六号
興行場の種別 演芸
定員 いす席四八名、立見席五二名
なお右室町劇場の営業許可名義人は、昭和五五、五六年当時武藤昭(昭和五四年七月二四日許可)となつているが、同劇場の実質上の経営者は、昭和四一年一二月二〇日以降引続き控訴人である。
2 右室町劇場における興行としては、午前一一時から午後一一時までの間、通常五名ないし六名の出演者により、いわゆるストリツプシヨーを行なつているが、控訴人は、出演者に支払つた昭和五五、五六年中の出演料について、所定の源泉所得税を徴収、納付しなかつたので、被控訴人は、昭和五七年三月三一日本件各処分をした。その後の経過は、請求原因2記載のとおりである。
3 ところで、ストリツプシヨーにおける出演者の、音楽に合わせた動作ない所作は、その内容、感情、巧拙にかかわりなく、令三二〇条四項に規定する舞踊の範ちゆうに含まれることは明らかであるから、出演者に出演料を支払う者は、その支払の際、源泉所得税を徴収、納付すべきこととなる。
したがつて、審査裁決により一部取消された後の本件各処分は適法である。
四 被控訴人の右主張に対する認否
被控訴人の主張1、2の事実は認めるが、3は争う。」と加える。
(控訴人の当審における主張)
被控訴人の本件各処分は、次のような理由でも違法である。
1 (実態を無視した違法)
「ストリツパー」は、供給業者との間に実質的雇用関係があり、供給業者が「ストリツパー」の年間所得を容易に把握する立場にあり、出演者が自ら所得税の申告をしたり、供給業者が納税しているケースもあること、また、控訴人の同業者らから統一的に源泉徴収を行つている実態はないことなど、本件各処分は、実態を無視している点において違法である。
2 (手続的違法)
本件各処分は前年までの慣行を無視して突然なされたもので、控訴人には財源の裏付けもなく、ただ数字上出演料の一割を納付すべきものとした本件各処分は、準備のための指導等適正な手続を欠き違法無効というべきである。
(控訴人の当審における主張に対する被控訴人の認否)
右主張は、いずれも争う。
(新たな証拠)
控訴代理人は、甲第二ないし第四号証を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第五ないし第一〇号証の成立は認めると述べ、被控訴人代理人は、乙第五ないし第一〇号証を提出し、甲第二号証の成立は認める、第三号証の赤字部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める、第四号証の成立は不知と述べた。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するもので、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(付加訂正)
1 原判決六枚目表二行目及び四行目の「請求原因1」の次に「及び被控訴人の主張1・2」を挿入する。
2 同六枚目表六行目「除く。)」の次に「、当審における控訴人本人尋問の結果」を挿入し、七行目「甲第一号証」を「甲第一、第二、第四号証」と改める。
3 同七枚目裏末行を
「5 以上のとおり控訴人の主張は、すべて採用し難く、他に税額の算定を含めて本件各処分(但し審査裁決後のもの)を違法とするような点はないから、同各処分は、いずれも適法であるというべきである。」
と改める。
(控訴人の当審における主張に対する判断)
1 控訴人は、本件各処分は社会実態を無視した違法な処分である旨主張するが、法が出演料について源泉徴収制度を適用することを規定している以上、仮に控訴人の当審における主張1の事実があるとしても、右制度に従つてなされた本件各処分を違法とする理由とはならないというべきであり、控訴人の右主張は採用し難い。
2 さらに控訴人は、本件各処分は準備のための指導等適正な手続を欠いた違法な処分である旨主張するが、ストリツパーに対する出演料につき支払者に所得税の源泉徴収義務が存在する以上、昭和五五、五六年度分の出演料について、税務官庁による事前の指導がなく、突然本件各処分がされたからといつて、本件各処分が違法であるとすることはできないし、まして原審証人月成甫の証言、当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和四一年一二月から興行場法二条一項の許可を受けて父の協力の下に室町劇場という名称で、昭和六〇年まで「ストリツプ」劇場を経営しており、その間控訴人は、遅くとも昭和五二、三年ころには税理士から「ストリツパー」に対する出演料につき源泉所得税を納めなければならない旨の説明を受けて、源泉所得税を納めたことがあり、右出演料については源泉徴収義務があることを知つていたことが認められることからすれば、控訴人の主張するように本件各処分を手続的に違法であるとすることはできないから、控訴人の右主張も採用できない。
二 よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森川憲明 裁判官 柴田和夫 裁判官 木下順太郎)